ヒラエッセイ

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2000年4月4日(火) 聞いた話

「イヤー驚いたよ、ヒラリーマン君」
「何がですか柳田部長?」
「最近じゃ、電話でインターネットができちゃうんだな」
「え、そうなんですか!?(びっくりしたフリをする)」
「ちょっと前なんて女子高生がポケベルで連絡とってたろ。それが携帯電話になって、今じゃメールだ。電話でしゃべっていた彼女たちなら、今更わざわざ原始的な文字通信に行くとは思わないだろ、普通は。ところがそれが不思議なことに、どんどん利用されているらしい」
「へ〜、そうなんですか。しゃべるほうが便利なのに、変ですねー」
「不思議だろ。これは実に不思議な現象なんだよな。普通じゃちょっと理解できない。しかしこれにはちゃんと理由があるんだよ」
「ほーーー、理由がですかぁ?」
「それはね、ここに遊び心というものがあるんだな。つまり、音声を使わないからこその面白みというか〜」

 この話はもう10回以上聞いている。柳田部長はお年のせいか、あるいはもともとの脳の構造のせいか、以前した話をあたかもはじめて話すかのように喋りまくる癖があるのだ。
 暇なときはいいけどれど忙しいときはイライラするので、何度か話の途中で「その話、前に何度も聞きました」と言ってみたこともある。ところが柳田部長は、
「そうだっけ? あー、そうだっけかなぁ。ヒラリーマン君に話したっけ。そうかそうか。まー、それでね、つまり彼女たちの遊び心というのは・・・・・・」
 と、そのまま強引に話を続けて、決してやめないのである。
 指摘されたらやめろよ、じじい! なんて思うのだけれど、サラリーマンだから上役には逆らえない。
 それにしても年はとりたくないものだ。同じ話をなども何度もエンドレステープみたいにしやがって、「周りの迷惑も考えろ、バカったれ」と、僕は言いたいのである。

「というわけですよ、課長」
「なるほどなー」
「まったくイヤですね、年寄りは。あれ、何とかなりませんかね。指摘されてもやめないんですよ。途中でやめるのがしゃくなんですかね。さっきみたいな話ならそれでもまだいいですけど、オチをつける話ってあるじゃないですか、笑い話とか。そんな話でもそのまま続けるんですよ。オチを知ってますよって、こっちが言ってるわけですから、やめたらいいじゃないですか。そう思うでしょ、課長? もしかしたら、前回とオチを変えてくるかもしれないな、なんてかすかな期待も最初はもちましたよ。ところが、一字一句間違いなく同じなんですよ。あれはいったいどういうつもりなんですかねぇ。まぁ、その度に笑ってあげる僕もお人よしなんですけどね。確かに、誰にどの話をしたかなんて、そりゃ全部覚えちゃいませんよ、誰だって。だけど同じ人に同じ話を何度も何度もするっていうのは、かなりボケてますよ。まったく柳田部長ときたら、困ったもんですよ。ああいう脳みそのバテちゃった人は、早く退職したほうがいいんじゃないかと、僕は思うんですよ。どう思いますか、課長?」
「あのよー、ヒラリーマン」
「なんすか、課長?」
「その話、もう何度も聞いたよ」
「・・・・・・」

2000年4月5日(水) ハイテクエスカレーター

 朝、駅前に救急車が止まっていた。
 救急車とかパトカーが止まっていると、どうせたいしたことはないのに、「どうしたんだろう?」と足を止めてしまう。
 それでも都会はクールな方で、これが田舎になるとすごい。真夜中に近所に救急車がこようものなら、頭にカールを巻いたり、ネグリジェを着たおばさんがぞろぞろ出てきちゃったりするのである。
 駅の改札を抜けて階段をおりていくと、救急車に備え付けの担架を数人の男たちが取り巻いていた。
 救急隊員3人と駅員2人は担架に手をかけて目の前のエスカレーターを眺めている。
 そして、担架には50がらみの男が乗せられ、目を閉じているのだ。
「もうちょっとです」
 駅員が、救急隊員にそういった。
 そのホームには登り行きの電車が発車待ちで停車しており、僕は彼らの目の前のドアから乗って、彼らの行動を眺めていた。要するに野次馬をしていたのである。
 しかし、僕が電車に乗って5分しても彼らはまったく動かなかった。エスカレーターの下から上を眺めているだけなのだ。
 エスカレーターは非常にゆっくりとしたスピードで動いており、今にも停止しようとしていることは明白だったが、その状態は僕が電車に乗り込んだときから変わってはいない。おそらく彼らはそれが完全に停止するのを待っているのだろう。
 僕には彼らがなにをしようとしているのか、その様子から想像することができた。
 あのエスカレーターは最近設備されたばかりの最新型だから、きっと救急担架を運ぶためのモードが備えてあるに違いない。
 エスカレーターは動く階段だけど、きっとその一段一段の階段がまっすぐに並び、そこに担架の両脇の足が乗っても平衡を保たれて、斜めに上昇するエレベーターみたいになるに違いないのである。
 しかし、それにしても時間がかかりすぎだ。
 これなら、さっさと今まで通り階段で上がってしまった方がはやい。
「階段で行けばいいじゃない。なにやってんのよ」
「ねぇー、そうよねぇーー。ずっとあれだもの。さっさと階段で行けばいいのに」
 野次馬は僕だけじゃない。こういう場に野次馬としてもっとも登場しやすいタイプのおばさんたちだって、見逃しはしないのだ。
 おばさんたちの声高の攻撃に反応することなく、救急隊員と駅員は、まだ上を眺めていた。
 こういうときの心理はわからぬではない。
「もうすぐ、このエスカレーターのすごい機能を使うんだ。もうちょっとで使えるから、あとすこし、まってくれ〜」
 駅員はそう思っている。せっかく高い費用をかけてつけた新型エスカレーターなのに、これを使わずに階段を使うというわけにはいかない。
 一方救急隊員は、「階段の方が早いかな」と思わなくもない。でも、もしも「これじゃだめだ。階段を使いましょう」と言って階段を上り始めたとたんにエスカレーターの準備ができて、「やっぱりそっちの方がよかった」という間抜けな状況になったらいやだなと、なかなか決心が付かないでいる。
「まったく、なにやってんのよ。救急の病人を運んでるんでしょ、あんたたち。さっさと階段で行けばもう救急車に乗れてたわよ!」
 こう罵声を発したおばさんの言った内容は正しい。しかしこれはあくまでも結果論で、エスカレーターはすぐにでも使えるようになったかもしれない。
 救急隊は「もう使えるだろう」「あとちょっとだろう」と思いながら、時間が過ぎてしまったといういらだちを感じているはずなのだ。
「まったくなにやってるのかしら」
「救急なのにねぇ」
「エスカレーターがどうにかなるの?」
「担架が運べるようになるみたいよ」
「階段で行けばいいじゃない、そんなことしてないで」
 こういうときのおばさんの連帯感はすごい。全く見ず知らずのおばさんたちが一つの非難対象に向かって、一気にグループを編成してしまうのだ。
「どうしよう。今更、階段へは行けない。でも、いつになったらこれが使えるんだ?」
 そんな不安といらだちにふるえる駅員と救急隊に、おばさんたちは襲いかかる。
「早く運びなさいよ」
「階段で運べばいいじゃない」
「そうよ、階段で運べばいいじゃないの。そんなのんびりしてたら死んじゃうわよ!」
「そうよ。死んだらどうするの」
「まったくよねぇ。患者が死んだらあんたたちの不手際よ」
「死んじゃうから早く階段に行きなさいよ!」
 こうなったらもう、ここはおばさんたちの勝ち。救急隊も駅員もぐうの音もでないで、黙っているしかない。
 やはりおばさんは最強なのである・・・・・と思ったそのとき、担架に寝ていたおじさんが目を開いて上半身を起こし、一喝したのであった。
「うるせーな、おまえら。死んじゃう死んじゃうって、このやろー。何なんだ、おまえらは! 病人を目の前にして死ぬ死ぬっていうんじゃねー、このくそばばー!」
 この一撃で、おばさんたちはあわてて電車の中に逃げていき、そしてエスカレーターは、5,6枚のステップが平行に並び、そのまま上昇していくというすばらしい技を見せたのであった。
 しかし、おばさんというのは実に凄い。そのあとこの電車が終点につくまで、おばさんたちは、
「あのおじさんはどこが悪かったのか」
 という話題でしゃべりまくっていたのである。まったく暇人としか言いようがない。
「捻挫とかじゃないですかねぇ?」
 参加する僕もアホなのだ。

2000年4月10日(月) ドキュメンタリー:ヒラリーマンの誕生日

「遠い親戚より近くの他人」なんていうけれど、まさか「同居の家族より遠くの他人」が僕の誕生日を祝ってくれるとは思わなかった。
 朝起きて僕は、からだの異変にまったく気が付くことがなかった。昨日までは38歳、今日からは39歳だというのに、その変化をまるで感じかったのである。
 1つ歳をとるって、たいしたことないのねぇ〜。
 だから僕は、自分の誕生日であることにまるで気がつくことなく、朝食を食べたのだ。
 パンをたべてコーヒーを飲んで、ヨーグルトをやっつけると僕の携帯電話がピコピコ鳴り出した。これは、メールがきたというお知らせなのだ。
 僕のメールボックスは非常に便利になっていて、eyeba@hilaryman.com にメールがくると、もちろんメールソフトを起動していれば「メールが来ました」とパソコンの画面に表示されてそれを読むことができるのだけれど、携帯電話にも転送されるのである。
 携帯電話では頭の128文字だったかなんだかとにかくあまり大きなのは表示できないので、長いメールだと頭しか見えない。それでも、誰からどんな用件かくらいはわかるので便利なのだ。必要ならばパソコンで見れば内容はすべて読めるのである。
 中には前置きの長い奴がいて、結局用件すらわからなかったりすることもあるにはあるけど、大体の用事はこれで足りてしまう。
 僕はパソコンの電源を入れて、メールを読みはじめた。すると、なんと数名の方から「お誕生日おめでとう」のメールがきているではないか。
「そうか、今日は4月9日。死ぬとき苦しむ。死んだら腐る。しかばね臭い、の4月9日。僕の誕生日ではないか。わっはっは」
 と、これでやっと気が付いたのであった。
 僕は早食いである、したがって家族で一番初めに食べ終ってしまう。僕はまだもぐもぐと食事をしている家内や子供たちに、
「今日は何の日?」
 と聞いてみた。
「日曜日」
「そうじゃなくてさ、他になにかあるでしょ?」
 と言っても、まるでだーーれもわからない。
 子供の誕生日ともなれば丸いケーキを注文して、家中大騒ぎの大イベントだ。家内の誕生日だって、とりあえず僕はケーキを注文したりプレゼントを用意したりしているのではないか。
 それなのに僕の誕生日はいったいどこへ行ってしまったんだ。
「今日は僕の誕生日らしいんだけど・・・・・・」
 控えめにそう言ってみると、家内は口の中にパンを入れたまま、
「あ、もぐもぐ。ほうだったぁ。あはは。もぐもぐ。わふれてたぁ。わっはっは。もぐもぐ」
 と言っただけだった。
 世の中では「子供はいくつになってもこども」というから期待して、二世帯住宅である我が家の一階に住むジジババのところへ下りて行ってみたら、こっちも覚えてない。
 孫の誕生日となったら1ヶ月以上前から騒いでいるくせに・・・・・・。
 しかし、僕ももう子供じゃない。丸くてロウソクの灯ったケーキに「ハッピバースデーツーユー」の歌の終わりを合図に、「ふーーっ」しようなんて思っているわけじゃないのだ。
 いつもと違ったちょっとだけ贅沢した食事をたべて、ゆっくりして、そして「ああ、また一年歳を重ねたんだなぁ」なんてこの一年を回想できればそれでいいのである。

 お昼ご飯の時間が近づくと、家内は小学校2年の息子と1年の娘と3人で食事の支度をはじめた。子供たちが食事作りを手伝うなんて事は餃子のとき以外はないことなのだ。
 子供たちはなぜか餃子を作るのがすきで、あれだと手伝いをしたがる。ただ面倒なのは食べる段になって、「これはつぶれているから僕の餃子だ」「これは大きいからあたしのよ」と所有権があるらしく、「これはいいの?」と聞いてからじゃないと食べられなくなることだ。
 餃子を作るときは食卓テーブルでわいわいやっているのに、今日の昼食作りは3人が台所の奥でこそこそやっているから、それではないらしい。
 僕は「パパの誕生日のために、3人で手作り料理をやってくれてるんだな」と悟り、密かにそれを楽しみに2歳の末娘の面倒を見ていたのだった。
 僕の誕生日だと知るや、遅まきながら長女と長男は手作りのプレゼントを作ってくれた。僕の似顔絵を二人で描いてくれたのである。こういう手作りのプレゼントが本当は一番うれしい。
 そして家内は子供たちと一緒に手作りのランチを僕のために作ってくれている。まあ、誕生日を忘れられたのはショックだったけれど、これで僕はあっという間に上機嫌になった。
 
 しばらくすると家内が台所から料理を運んできた。
 僕はまだ気がつかないふりをしながらテレビを見ていた。すると家内は持ってきた料理をテーブルの上にどんと置いて言ったのだ。
「今日は久しぶりに・・・・・・。こんなのはめったにしない昼食だけど・・・・・・」
 めったにしない食事。つまりご馳走だ。久しぶりのご馳走なのだ!
 僕はようやく腰を浮かせて体ごと視線をテレビから食卓テーブルの上に移した。ここで目に映った料理を見て、
「わおっ、すごい。これはご馳走じゃないか。いったいどうしたんだい、こんなご馳走を!?」
 と叫べば、
「なにいってんの。今日はあなたの誕生日じゃない。うふふ」
 と、こういうせりふのやり取りになる。お決まりのパターンなのである。
 僕はそんなパターンを期待しながら、テーブルに目をやった。すると、そこにはなんと、いびつで大きさがさまざまなおにぎりだけがドカンと乗っていたのである。
「今日は久しぶりに粗食デーにしましたーー! たまには体のために粗食がいいのよねー」

 またまたすっかり僕の誕生日を忘れた家内は、本日を粗食デーにしたのでありました。
 わざとではないか、という思いが半信半疑のうちに、僕の誕生日は終わったのでありました。

2000年4月12日(水) おばさんVSシステム部員

 会社のパソコンを入れ替えた。
 会社のスペースを有効活用するために、すべてノートブックパソコンに取り替えたのである。
 パソコンを取り替えたり、ソフトを入れ替えたり、なにかシステムを大きくいじるとその翌日は、必ず大騒ぎになる。だから早く出社するのだ。
 普段は「あら、あたしなにか間違えたかしら?」と自分のミスを疑って調べていたおばさんたちも、こういう日はいかなる自分のチョンボも、「きっと新しいシステムのせいだわ」「新しいパソコンが悪いのよ」と思い込むことにしているらしく、じゃんじゃんシステム部に苦情の電話を入れてくるのである。

「ヒラリーマンさん。プリントが出ないわよ。ちょっときてよ!」
「プリンターの電源はいってます?」
「パソコン変えたからじゃないの!?」
「電源を見てください。ランプついてますか?」
「あたしは何もしてないわよ!」
「電源ランプ、見てくださいよ」
「ランプ? えーと・・・・・・ついてない」
 やっぱり。
「ね、電源を入れ忘れてたんですよ。パソコンの交換のせいじゃないです。もう少しご自分で確認してから言ってくださいね」
「なに言ってんのよ。あたしはいつもこの電源はつけっぱなしよ。パソコン交換の工事のときぬいたんでしょ。やっぱりそっちのせいよ!」
 こんな調子なのである。
 特に販売3課の横溝女史は口うるさいので有名だ。そしてその横溝さんから一番に苦情の電話がかかってきたのであった。

「ちょっと、なによあんた」
「なによって、なんです?」
「このパソコンよ。なんなのこれ」
「それはその、ノートパソコンです」
「そんなこと知ってるわよ。馬鹿にしないでよ」
 はっきりいうけど、このおばさんはバカなのである。ちゃんと学校も出ているけどバカなのだ。
「それじゃ何ですか?」
「あたしの仕事はね、数字を打つことが多いのよ。数字よ数字。わかる?」
「数字って、つまりいち、にー、さんの数字ですよね」
「違うわよ、ばか。それじゃなくて、ワン、ツー、スリーの数字のことよ!」
 おなじじゃねーか。
「だから、いち、にー、さん、の数字でしょ?」
「話のわかんない人ね、おたく。計算に使う数字よ。英語の数字!」
 要するに、一、二、三、じゃなくて算用数字だといいたいらしいのである。やっぱりバカなのだ。
「で、その数字がどうしました?」
「どうしましたじゃないでしょ。テンキーがないじゃないの、テンキーが。テンキーなしじゃ仕事にならないのよ!」
 このおばさんの態度は気に入らないけれど、それは確かにそうだなと、僕も思う。数字をメインに入力する人にとって、ノートパソコンにテンキーをつけるのは必須なのだ。
 仕方がないので僕は急いでパソコンショップへ行き、テンキーを買って帰ってきた。
 テンキーのNUM ROCKが本体のキーボードと連動しない機能があり、「000」のキーがーついていて、USBで接続できるもの。テンキー一つを買うにもそれなりの知識が必要だから、勝手に買って来いというわけにもいかないのである。
 僕は会社に戻ると昼休みでおばさんが食事に行っている間にキーボードを接続し、動作を確認して席に戻った。そしてお茶を飲んで休憩していたところに、またもや横溝のおばさんが怒鳴り込んできたのだ。

「ちょっとあんた、なによあれ!」
「あれって?」
「テンキーよ! 壊れているない。不良品よ!」
「そんなバカな」
「じゃ、来てごらんなさいよ」
 急いで僕はおばさんの元へ走った。するとおばさんはパソコンの前にふんずり返って、タバコの煙を鼻の穴からぷわーっと噴出して、僕を睨みつけて怒鳴り始めたのであった。
「ほら見なさい。あんたがテンキーをつけたんでしょ。そしたらそれからずっとパソコンがおかしいじゃないの。どうしてくれるのよ。この表は朝から3時間もかけてくつった表なのよ。それなのに見なさいよ。何もしてないにほら、000000000000ってずーーと自動的に0が並んで入っていくじゃないの。ほらほらほら、あたしが入れたデータをみんな消しちゃって、勝手に000000000000・・・・・・・。いったいなによこれ。どうすんのよ、あんた。がみがみがみがみがみがみがみがみきりきりきりきり、ぷわっ〜。がみがみがみがみがみがみ・・・・・・」
 おばさんの怒りは収まらず、10分以上にわたり文句を言いつづけ、そして画面には0が延々と並びつづけたのであった。
 あまりの騒ぎに回りの人たちも集まって、なんだなんだと騒ぎになってしまったのである。
「あんたのせいよ。この膨大な資料からあんた、データ入れなおしてよね。ねぇ、ヒラリーマンさん。おたくらいったいどういう仕事してるの。ちょっと何とか言いなさいよ。いったいどうして勝手に000が入っていくのよ!」
 ギャラリーを集めたおばさんは、勝ち誇ったように僕に最後の一撃を加えるかのごとく、詰め寄った。
 そして毎度の事ながら、僕はあきらめきったように静かにおばさんにこう答えたのであった。

「それはね、あんたがテンキーの上に、その膨大な資料を置いてるからです」

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