ヒラエッセイ

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2001年5月10日(木) ボークの魅力

 このところ日曜というと久しぶりに野球をやるようになった。
 我がめばえ野球倶楽部もメンバーがだんだん年を取ってきたので少し若い人を入れたりしているのだけれど、どういう訳か下手くそなのばかりしか来ないので、今のところポジションを取られる心配はない。
 先週もセンカンドを守って打撃は3打数1安打。アウトを一人で5つもとるという大活躍をしたのだ。
 それにしても、草野球をやっていてどうしても不思議なことがある。それは審判の「ボーク」に対する執着なのである。
 はっきり言って選手はみんな下手くそだ。プロ野球だったら外野フライがあがったとたんに「あーあ、打ち上げちまった」とがっくりするのだけれど、草野球は違う。
「とれるわけねーよ」
 そうたかをくくって見ている。結果は思った通り。ボールは、思い切り突進するというガッツを見せるセンターの頭上をなぜか越えていく。「しまった、距離が伸びてた!」とあわてたセンターは10メートルもジャンプできるわけがないのに必死にジャンプして上がったのはせいぜい20センチくらい。ボールはぽとりとグランドに落ち、転々と転がる。そしてセンターは腹周りの贅肉をプルプルさせながら、いつ絶命してもおかしくないような息づかいでボールを追う。しかしボールをつかんだときはすでに、打ったバッターはセカンドを回ろうとしているのだ。プロ野球だったらここで三塁コーチがランナーにストップのジェスチャーをするのだけれど、草野球は違う。
「回れーー回れーホームまで行っちまえー!」
 無茶なようだがこれが正しい。あわててサードにボールを投げるセンターだが、イチローのような弾丸送球なんてできるわけがない。投げた玉は砲丸投げのようにすぐに落下してバウンドする。そして中継に入ったショートがこれを見事にチャットしてサードへ・・・・・・と思ったらバウンドした球をグローブの端に当てて、球はまたもやころころ転がり出す。そしてそれを追いかけるショートはこともあろうにその球を自分で蹴飛ばしてしまうのだ。
「ナイスキック!」
 相手ベンチからヤジが飛び、その間にバッターは悠々とホームイン。このようにして外野フライはランニングホームランになってしまうのである。
 草野球ではフォアボールでも三塁打もあまり変わりがない。なぜなら一塁ランナーになってしまえばピッチャーが投げるたびに2塁、3塁と進めるからだ。盗塁を刺せるキャッチャーなんてのは実にまれで、ほとんどの場合は歩くようにして次の塁に進める。ここでキャッチャーが色気を出してスローイングしようものなら、暴投になってランナーはホームインするという結末が待っているのである。
 こんな下手くそな野球だからこそ、ヘボな内野フライがあがっても審判は「インフィールドフライ!」なんて宣言はしない。落とすかもしれない可能性が大だからフライが上がったとたんにアウトとなるインフィールドフライのジャッジをしないのである。つまりここは野球のレベルにあわせたジャッジをしていることになる。
 ところが、なぜかどこでもどの審判でも、ボークだけは違うのだ。
 ランナーがでてセットポジションになる。そしてピッチャーがちょっと一塁を見たとたんに審判が、
「ボーク!!!」
 と怒鳴るのである。しかも、そのときの審判は異常に得意げなのだ。
 はっきり言って草野球のピッチャーは牽制球もろくに投げられない。投げたところで相手がちゃんとキャッチしてくれるかどうか怪しいし、まともなところに投げられる自信もない。だから投げない。
 だから、当然ボークもよほどひどくなければ大目に見てあげるのが野球のレベルに合わせたジャッジだと思うのだが、どういう訳かは執拗までにとる。
 おまけに、ほかのジャッジとは違い、いちいち説明を付けるのである。
「今ね、君ね、こうしてセットポジションになってね、それで1塁を見たでしょ。そのときね、肩がこうやってね、こう動いたんだよ。だめだよ動かしちゃ。だめなんだよねー。だからボークね」
「ボーク! だめだよーきみ。あのね、セットポジションにはいるときね、きちんと止まってないんだな。ね、動いてんだよなーー。だからボークね」
 とにかくこと細かく解説するのだ。
 ひどい時なんて、頼んでもない審判が勝手にやってきて、ずっとピッチャーの後ろについてピッチャーの一挙一動を観察し、ボークを20個くらいとりまくったことがあった。いったい何者かと思ってあとで主審に聞いたら、彼はボークをとるのを生き甲斐にしてる人で、そのグランドの名物らしいのだ。
「全くあの人は勝手に来てボークばかりとってるんだよな。困ったもんだ」
 と、さすがに主審もあきれていたのである。いくら何でも限度というものがある。
「そうですよね、審判。あれはちょっとおかしいですよね。僕も見ていてそう思いました」
「そうだろ。全く頭に来るよな。しかし、追い出すわけにも行かないし」
 僕は野球をせずに審判をしたがる人種とはどうも馬が合わないのだが、このときばかりは共感することができた・・・・・・ような気がしたんだけど・・・・・・。
「全く困ったもんだ。あのボーク、俺がとろうと思ったのに」
「・・・・・・」

 それほどまでに審判が取りたがるボーク。そこにはいったいどんな魅力があるのだろう。

2001年5月29日(火) 逆に言う女

「何しろこの企画には予算が300万しかないんですよ」
「それでよろしいですわ。逆に言えば、うちとしてはそれでもかなりの効果が上げられると思っているんですよ」
 ホームページを使って商品の宣伝をすることになり、そのための企画会議が毎週開かれている。会議の参加者はホームページ作成会社女社長の大田原さんと我が社の各部署の社員数名で、それに僕も入っているのだ。
 週に1度行われるこの会議に参加するのはやぶさかじゃないし、内容自体は結構楽しい。しかし、僕はどうにもこの大田原女史の口癖が耳についていやなのである。
「まぁ、はたしてインターネットでの宣伝効果がどれくらいあるのかわかりませんしねぇ」
「そういう心配も確かにありますわね。でも逆に言えば私くしなどはかなりその辺のツボは押さえてますからご安心ください」
 こんな具合にやたらと「逆に言えば」をつけたがる。本当に逆に言ってるならいいけれど実際はなにも逆じゃない。要するにただの口癖なのだ。
 この手の口癖ではこんなやつもいる。
「いわゆる〜インターネットでは〜」
 なんでもかんでも頭に「いわゆる」がつく。「いわゆる」というのは「一般的によく言われる」という意味だけど、いわゆるでも何でもないのにつけるのだ。
「そういえばさぁ〜」
 これもよくいる。誰かが何かを言って、それによって思い出した時に使うのが「そういえば」だ。ところが誰も何も言ってなくて、最初に口を開いたくせに「そういえば〜」出始めるのだ。こういう奴を見るとぼくはついつい、
「おい、大丈夫か!? 誰も何も言ってないぞ。幻聴が聞こえるのか? しっかりするんだーーっ! 眠っちゃだめだーっ!」
 とからかいたくなるのである。

 大田原女史は2時間の会議で100回くらい逆じゃない逆を連発し、僕を完全にいらつかせた。そして会議は終盤となり、話は雑談へと移っていった。
「そうですね。最近の若者は挨拶もできないですからね」
「うちの若い子もそうですわ。どういう教育をしているのかしら」
「困ったもんですね。うちのある若手なんて、『挨拶くらいちゃんとしろ』って教えたら、翌朝なんて言ったと思います? いきなり『こんち!』ですよ。あきれちゃいましたよ」
「まぁ。でも逆に言うと私たちが子供の頃はちゃんとそういう教育を親からされてましたよね」
 また始まった、意味のない「逆に言うと」が。いったい何が逆なんだ。全く変なことを言う女だ。逆だというならちゃんと逆にしろ。僕はなんだか急に腹が立ってきて、心の中で毒づくつもりが、思わず声になってしまったのであった。
「大田原さん。『こんち』を逆に言えば『ちんこ』です!」

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Akiary v.0.51