ヒラエッセイ

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2000年1月5日(水) ミレニアム年越しパンツ

「ご苦労だな、ヒラリーマン」
「いえいえ、課長こそ。奥さんお冠でしょう。年明けに仕事じゃね」
「そんなこたぁーねーよ。あうんの呼吸よ。結婚して30年越えりゃそんなもんだ」
「そんなもんですかねぇ〜?」
 僕らは西暦2000年問題で、会社に泊まり込むことになったのだ。大晦日の夜から元旦の昼間で、コンピューターのテストをしながらの勤務なのである。
 西暦2000年だミレニアムだと叫ぶ中、すっかり「平成」は陰に隠れてしまった。
 平成も11年から12年に変わるというのに、平成12年という言葉はまるでどこからも聞こえてこない。
 西暦2000年なんていうのは要するにキリストの誕生から2000年だということなのに、神社にまで「祝 2000年」なんて書いていあるのはいったいどうなっちゃっているんだろう。
 来年は2001年。つまり21世紀になるのできっとまたそれで大騒ぎになってしまい、平成13年も影を潜めてしまいそうだ。

「ところでヒラリーマン、パンツは持ってきたか?」
「パンツならはいてますけど……」
「アホかお前。あたりめーだろ。おめーがノーパンでどうするんだよ。そうじゃなくてよ、変えるパンツを持ってきたかって聞いてるんだよ!」
「変えるパンツって、なんすか、課長?」
 すっかりのびきったまずい年越しそばを食べていたら、突然課長がこんなことを言い出したのである。
「きたねーなぁ、おめー。まさか、ミレニアム年越しパンツをするつもりじゃねーだろうな」
「なんすか、それ?」
「1000年代から2000年代に変わるという特別な年越しだぞ。きたねーパンツをはいたままだと1000年パンツを年越ししちまうだろ?」
 どうしてそういうことになるのかよくわからないのだけれど、とにかく課長はミレニアムの年越しだから、新しいパンツじゃないといけないいう主張を始めたのであった。
「ミレニアムの年越しパンツをするなんて、汚いわよ」
 なんてことを、奥さんがいったそうなのである。
「どうだ。うちの女房もなかなか気がつくだろ。ミレニアムにパンツの年越しなんて、世界中でおめーくらいなもんだ。もうちょっと女房教育が必要なんじゃねーのか。あっはっは!」
 課長もとぼけた人なんだけど、どうやら奥さんも同じような人らしいのである。

「すると、カウントダウンは世界中で大変なことになりますね」
「なんで」
「みんなパンツ脱ぐんでしょ、年が変わる前に」
「なんで?」
「年越すときにパンツはいてたら、どうしたってそれがミレニアム年越しパンツになっちゃうでしょう。すると、世界中でカウント10あたりからパンツぬいじゃって、チンチンをブラブラさせて振り子代わりにしてカウントして、年を越してから新しいパンツにはきかえるんでしょ。すごいなぁ。どうぞ、やってみてください」
「……」
 課長のところも、似たもの夫婦なのである。

2000年1月6日(木) 寒い日は、才能を伸ばそう

「ふーん。それで君としては、いろいろと課長に文句があるわけか」
「文句ってわけじゃないですけど、やっぱりおかしいと思うんです」
 課内で最も若い荻野君が、自分に与えられる仕事について文句があるらしく、課長の批判をはじめたのだ。
「いくら若くても、雑用ばかり押し付けられるのは納得できないんですよ。その変は平等だと思うんです。これなんて、課長の書類ですよ。なんで僕が郵便局まで行かなきゃいけないんです? 課長なんて暇そうじゃないですか。自分で行けばいいんですよ」
「でもさぁ、堀田女史だってやってんじゃんか、雑用」
「それはあの人は実務職だし、適材適所ですよ」
 どうやら総合職として採用された自分が、雑務をやると言うのは気に入らないと言うことらしいのである。
「そうかぁ。確かに適材適所は必要だね」
「そうでしょう? 適材適所はつまり効率性の追求でしょ。より効率的に社員を使うと言うことが、これからの会社の発展には必要なんですよ。だけど課長は年功序列思考でしょ」
 というより、あの課長にはあまり思考と言うものがないだけなのだ。
「効率ねぇ。なかなかいいこというなぁ、ちみ」
「当然ですよ。その人に得意なことをやらせることで、効率化が図られるんです。得意なことを見つけて、その特技を生かしていく。そんな上司の命令だったら、なんでも聞きますよ」
「あ、そう。あ、効率で思い出したんだけどさ、うちの近所に公立高校があるんだけど、最近は私立みたいにカラフルな制服なんだな」
「そうですよ。じゃないと、生徒が集まらないでしょ」
「だけどさ、すげーミニスカートなんだよ。パンツ見えそうなんだぜ。冬なのに、平気なのかね?」
「やだなぁ、ヒラリーマンさん。彼女たちは10代ですよ。若いんです。子供は風の子の延長線上ですよ。寒いわけないじゃないですか。おじんですね、ヒラリーマンさん」
 確かに僕も中学生のころなんて、真冬でも短パンを履いていて、「短パン小僧」の異名をとったくらいなのである。本当に若さは寒さに強いものなのである。
「どうせおやじだよ、僕は。今日なんか寒いくて表に出る気もしないさ」
「だから昼飯はそばとったんですね? 僕なんてぜんぜん平気ですよ。まだ若いですからね。それに寒さにはもともと強いんです」
 まったく、こうも簡単に引っかかってくれると、面白みがない。しかし、とりあえず書類の件はこれで片付くのである。

「そっか。強いのか。寒いの、得意なのか?」
「ええそれはもう得意・・・・・・あ」
「じゃ、やっぱり郵便局はおまえが行けよ。今日は寒いからなぁ、外は。寒いの得意な君の才能を伸ばそうじゃないか。はい、行ってらっしゃい」
「はめましたね、ヒラリーマンさん」
 まだまだ未熟よのぅ〜。

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