ヒラエッセイ

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2000年9月7日(木) 会議が眠い理由

 会議というのはどうして眠くなるのだろう。
 いや、ならない人もいるのだろうけれど、僕は会議となると自分の意思ではコントロールできないような強烈な眠気に襲われるのだ。
 午後の会議というのは僕にとっては「寝てください」と言っているようなものであって、気持ちとは裏腹にまぶたがずんずん重くなってくる。眠くならない人は「たるんでる」とか「やる気がない」と怒るのだけれど、僕にしみればやる気は十分なのに、なぜか眠くなるという不思議な問題を抱えているわけで、とても困っているのだ。
「おい、おまえ。こら。おきろ! なーに居眠りしてんだ。会議中に寝るなんてとんでもねー野郎だ」
 こう叱られるのはごもっともなのだけれど、僕も寝たくて寝ているわけじゃない。本当に無意識のうちにすーっと眠りに入り込んで行ってしまうのである。
 しかし、今日は調子がいい。昨日は今日の会議のためにいつもよりも1時間半余計に早く寝て、十分な睡眠をとっておいた。だから僕は会議室に入ったときには気分爽快意識はっきりだったのである。
 頭がさえていると気持ちにも余裕が出てきて、会議内容を聞きながら、ついつい他のことも考えてしまう。
 僕は部長の説明を聞きながら、「どうしていつもは眠くなるのか」ということについて、なんとなく考え始めていたのであった。
 僕は決してやる気がないわけじゃないし、寝ようと思っているわけじゃない。だからそこにはどうしても眠くなってしまう正当な理由があるはずだ。それについて考えたら、二つの理由が考えられた。

 ひとつは、病気だ。都会人は色々なストレスによって、知らず知らずのうちに心が病んでいる。毎日秒刻みで押し寄せてくるさまざまなストレスに耐えかねて、思いもしない身体的な障害が現れたりするらしい。たとえばチックだ。
 僕は子供の頃、何らかのストレスのためにチックになったことがあった。定期的に頭をぶるぶると振らないといられなくなったのだ。あの頃はそういうものへの理解がないので、親も先生も「やめなさい」と注意するだけだったのだが、あれは指摘されると余計ダメらしく、かなり長い間続いた。その後もいくつかのチックで悩まされたけれど、自分自身で原因は全く思い当たらなかった。
 原因のわかるものといえば浪人中のもので、勉強をしようとすると背中がとてつもなくかゆくなるという現象がつづいた。あれはチックと言えるのかどうか知らないけれど、面白くもおかしくもない受験勉強のストレスによるものであることだけは間違いない。頭じゃ「やらねばならない」と思っているのだけれど、体の方が「勉強なんてやめちまえ」と主張してくる。だいたいいままではその主張が全面的に受け入れられてきたのに、その自然のささやきに逆らって机に向かっているのだから、これに対する体側の抗議は次第に強くなっていくようだった。こういうのは無意識なのに起きてしまう障害なのだから、立派な病気だ。
 会議になると眠くなるというのも、これと同じ現象ではないかという疑いがあるのである。
 もうひとつ考えられる理由は催眠術だ。テレビの催眠術ショーを見ていたらあるタレントが、「こんちには」と言われたら「コケコッコー」と返事をするように催眠術をかけられてしまった。この人はその後全く普通にしていて、普通に話しをしていたのに、「こんにちは」と言われたらとたんに「コケコッコ−−!」と答えてしまうだった。自分の意思に反してそんな返事が出てしまう。催眠術というのは全く凄いものだと感心させられてしまった。
 だから僕の場合、会議が始まったら眠くなるという催眠術を誰かにかけられたのではないかと、そんな疑いを持ってしまうのである。だとしたら、いったい誰が?
 それは例えば僕と出世争いをしているライバルだとか、あるいは会社による陰謀とか・・・・・・。どっちもあまリ僕のようなぐうたらサラリーマンには縁がなさそうだとも思えるのだけれど、それでも異常な眠気はと見事ともいうべき眠さが来るタイミングを考えれば、全くないとはいえないと思えてしまうのである。
 余談だけど、ああいうショーを見るとついつい「手をたたいたらパンツを脱ぐなんてのも、可能なのかな・・・・・・」と思ってしまう。催眠術、習おうかな。

 考えられる理由と言えばこれくらいなんだけど、どちらも違うような気がしてならない。
「いったいなぜだろう・・・・・・?」
 僕は腕組みをし、目を閉じて改めてゆっくりと考え始めた。そして、そのままスーっと眠りに入っていったのであった。

2000年9月12日(火) 黄昏の流行語

 今日の朝、通勤電車にケバいおねーちゃんが2人乗ってきた。
 年のころは21、2というところだろうか。グリーンのミニスカートに竹馬みたいな靴をはいているからやたらに足が長く見えるのだ。
 しかし、あまりの派手さでどう値踏みしてもキャバレーのホステスに見えるのだけれど、時間は朝の8時だし、「今日さぁ、朝から役員会でちょーいそがしいのよ」なんて言っているからこれでもOLらしいのだ。
 アイシャドーはブルーでこてこてに塗ってあって、目の回りにはマラカスもふんだんに使用しているし、前から見たら気がつかなかったけれど、横から見たらまつげが異常に長い。あれはつけまつげなのだろうか。
 関係ないけどマスカラとマラカスってたまに間違えてしまう。カラオケで「マスカラとって」なんて言っちゃったりする。でも、酔っ払うと「マラカス」なのか「マスカラ」なのか本当にわからなる。冷静に考えようとすると、
「ええと、マラカスってのはマラのカスだから、チンポコについてゴミのことで、でもマラカスは化粧品だし・・・・・・」
 なんて迷ってしまう。
 そう言えば、結婚式の司会をしたときにあがってしまって、「ウエディングケーキに入刀」っていうのを、「ええと、トウニュウダッケ、ニュウトウだっけ?」ってわからなくなったことがあった。冷静に考えようと自分に言い聞かすのだけれど、これがまたもやどつぼにはまってしまう。
「トウニュウっていうとこれは豆乳だからへんだな。でもまてよ。ニュウトウだと乳頭だぞ。おっぱいの先っちょだ。そりゃもっと変だ。どっちも変じゃないか。ええと、どっちだっけ?」
 人間、緊張すると、もう頭の中が真っ白になってしまうのである。
 もちろんこれはニュウトウが正しい。だからこれから結婚式の司会をする人は、ぜひ「ケーキカットはオッパイの先っぽ」とおぼえておいてほしいのだ。

 さて、話を戻してケバイおねーちゃん。
 最近はああいうおねーちゃんがたくさんいて、それが普通のOLだったりするから不思議なのだ。いつのまにか女子高生がキャバスケみたいになってきて、それがそのまま成長して女子大生になった。そしてついにそのままOLになったのだろう。
 キャバスケOLはこのところどんどん増えて、あと数年で全OLキャバスケ化が完了しようという勢いだ。しかし、普通の女性がキャバスケ化してしまうと、キャバスケはいったいどうしたらいいのだろうか。ピンサロのおねーさんたちはいったいどうやって自分たちが「素人じゃありません」と宣言するようになるのだろうか。この変は非常に難しくなりつつある。せめて言葉遣いくらいは区別がつきそうだと思っていたら、それがこの通りなのである。
 
「今日さぁ、役員会が朝からあるからぁ、チョー大変!」
「えー、そんなのばっくれちゃえばいいジャン」
「だけどー、課長が超厳しくて無理!」
「うっそー、むかつくー」
 この「チョー」なんて言うのは女子高生だけだと思っていたら女子大生まで広がって、ついにOLにまで広がってしまったのだ。。そのくせ「チョベリバ」なんて言うのは消えてしまったのだから回転が速いのなんの。
 数々あったはやり言葉の中で生き残っていく言葉というのは意外と少ないのだけれど、中にはすっかり定着した言葉もって「マジかよ?」の「マジ」などがそうだ。あれは僕が高校時代にはやり始めた言葉だけれど、いまではおっさんでも使っている。
 歌の歌詞にまで漢字では「本気」と書いて「マジ」と読ませる歌詞もたくさん出ているし、子供から大人まで使っている。
 そうすると「チョー」ってのも一時の流行り言葉を抜け出して、もしかしたらもう少しでおばさんたちにまで広がるかもしれないし、こういう言葉があたりまえで、国語辞典に載る日もそう遠くはないのかも知れない。

 だけど、人生のたそがれを迎えた品のいいお爺さんとお婆さんが公園の陽だまりで長椅子にすわり、
「今日はチョーいい天気ですね」
「そうだね、バッチグーだね。でも午後はすっげー崩れるようだよ、おばあさん」
「マジですか、おじいさん?」
「マジだよ、おばあさん。ちゃんと天気予報をインターネットでチェックしたからね」
「おじいさん、クールじゃないですか」
 なんて会話をしてたりしたら、やっぱりなんだか変な気がするのである。

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